各地の民話・伝説に見る鬼
牛鬼淵の牛鬼伝説(和歌山県)
この伝説は、和歌山県西牟婁郡に伝わるもので、淵の底が海にまで通じていると言われています。淵には牛鬼が住んでおり、水が濁ると出てくるとされています。
牛鬼は、頭が牛で胴体が鬼の姿をしており、毒を吐いたり、人を食い殺したりする非常に残忍で獰猛な性格をしています。
出会っただけで人を病気に至らしめるという恐ろしい妖怪です。
牛鬼に遭遇したときは、「石は流れる、木の葉は沈む、牛は嘶く、馬は吼える」などと逆の言葉を言うと、命が助かるという言い伝えがあります。これは、牛鬼が人間の言葉を理解できないという考えに基づいていると思われます。
牛鬼は、猫のような体と1丈(約3.3メートル)もの尾を持ち、体が鞠のように柔らかいので歩いても足音がしないという特徴があります。
また、女に化けて赤ん坊を抱いて人に近づき、相手が赤ん坊を抱くと石に変わって重くなり、その隙に牛鬼に食い殺されるという話もあります。しかし、牛鬼が女に化けても水辺に写った姿は牛鬼のままであり、これによって牛鬼の正体を見破ることができるという話もあります。
牛鬼淵の牛鬼は、かつては人間と仲良く暮らしていたという説もあります。牛鬼は人間の言葉を話し、神通力で一日千里を走ることができるとも言われています。しかし、人間の欲や妬みによって迫害され、淵に隠れ住むようになったという話です。
また、牛鬼の伝説は地域によって異なり、一部の地域では牛鬼が人間に化けて人を助けるという珍しい話もあります。
例えば、上戸川では滝壺に牛鬼がいるといい、これに影を嘗められた人間は高熱を発して数日のうちに死ぬといわれ、それを避けるため毎年正月に、牛鬼の好物である酒を住処に供えたといいます。
例えば、三尾川の淵の妖怪譚では、牛鬼が人間に化け、さらに人間を助けるというたいへん珍しい話がある。青年が空腹の女性に弁当を分けたところ、その女性は淵の主の牛鬼の化身で、2ヶ月後に青年が大水で流されたときに、牛鬼に姿を変えたその女性に命を救われました。だが牛鬼は人を助けると身代りとしてこの世を去るという掟があり、その牛鬼は青年を救った途端、真っ赤な血を流しながら体が溶けて、消滅してしまったという。
これらの牛鬼伝説は、人間と自然、そして超自然的な存在との関係を象徴しています。
牛鬼は、人間の恐怖や不安を具現化した存在とも言えます。また、牛鬼が人間に化けるという部分は、人間の欲望や欺瞞を示しているとも解釈できます。
逆に、人間が牛鬼を見破るという部分は、真実を見抜く知恵や勇気を象徴しているとも言えます。
なお、牛鬼の正体は老いたツバキの根という説もあいます。日本ではツバキには神霊が宿るという伝承があることから、牛鬼を神の化身とみなす解釈もあり、悪霊をはらう者として敬う風習も存在するのです。
またツバキは岬や海辺にたどり着いて聖域に生える特別な花として神聖視されていたことや、ツバキの花は境界に咲くことから、牛鬼出現の場所を表現するとの説もあいます。共に現れる濡女も牛鬼も渚を出現場所としており、他の場所から出てくることはないのです。