天狗の意義
天狗にさらわれた少年(静岡県)
「天狗にさらわれた少年」の伝説は、伊豆の国市奈古谷にある古刹・国清寺に伝わるものです。
この伝説によれば、蔓延元年(1860年)三月、一兆という名の少年が国清寺にいました。
一兆は悪たれ小僧で、近所の子供たちと遊ぶのが大好きで、修行に身が入りませんでした。
ある夜中、一兆が厠(便所)に行って戻ってくる途中、暗がりから黒い怪物が現れ、「おおっ、可愛い小坊主だぁ。俺たち天狗の仲間にしょう。」と天狗達に囲まれてしまいました。
「いいか、絶対目を開けるなよぉ」と言い放つと、天狗は一兆を掴んで空高く舞い上がっていきました。
やがて、どこか分からない山の野原に降ろされ、また天狗達に囲まれてしまいました。
「やいやい、おまえ、天狗になれ」と口々にはやし立てられてしまう一兆。
一兆は「許して下さい。天狗になるのは嫌です」と三日三晩、夜も昼も構いなく、食うものも食わずに泣き続け、しまいには涙も声も枯れ果ててしまいました。
すると天狗は「臆病者!それなら目をつぶれ。寺へ返してやる」と言うのでした。
その頃、国清寺では一兆がどこにもいないと大騒ぎになっていました。
そして和尚は寺の僧侶を集め、祈祷をして神隠しの解けることを祈のるのでした。
ところが、三日目の真夜中、わんわんという泣き声に、和尚が寺男に提灯を持たせて外へ出てみると、屋根の上に一兆が震えて立っているのでした。
和尚たちは、提灯のあかりをたよりにようやく一兆を降ろすことが出来ました。
一兆というのは、実在の人物で、後に塔頭の高岩院住職となりました。
また、今でも建長汁と共に、修行僧が食べている国清汁 (こくしょうじる)はこの寺が発祥の地です。
後に奈古谷高岩院の住職となり、明治44年5月、65歳で亡くなられたそうです。
この伝説は、「天狗にさらわれた一兆」(『伊豆の民話集』勝呂弘編 長倉書店刊)として記録されています
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