古文書に見る鬼の類型
今昔物語集
『今昔物語集』は平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて成立した説話集です。
この作品には、仏教や道教の教えに基づく因果応報や転生の話や、鬼や妖怪、幽霊などの怪異の話などが収録されています。
巻二十七「鬼」には、鬼に関する十三の話が収録されています。
第一話「鬼の妻との結婚」
ある貧しい男が山に入って鬼の妻と出会い、結婚することになります。鬼の妻は男に金や宝を与えて豊かに暮らさせますが、人間の世界には戻らないように言いつけます。男は鬼の妻の正体を知らずに幸せに暮らしていましたが、ある日、鬼の妻が鬼の姿になっているのを見てしまいます。
鬼の妻は男に自分の正体を告白し、山に住む鬼の一族の娘であることを明かします。男は鬼の妻の正体を知って恐れおののきますが、鬼の妻は男を愛しているので、別れを惜しみます。しかし、鬼の妻は男に自分の髪の毛を渡して、これを持っていれば鬼には襲われないと言って、男を山から送り出します。
男は鬼の妻の髪の毛を持って人間の世界に戻りますが、鬼の妻のことを忘れられません。
ある日、男は鬼の妻に再会するために山に向かいますが、鬼の妻はすでに亡くなっていました。鬼の妻は男のことを思って死んだのです。
この話は、鬼と人間の間の恋愛や結婚を描いたものであり、鬼の妻は人間に対して優しく愛情深い存在として描かれています。
しかし、鬼と人間の間には隔たりがあり、結局は別れるしかないという悲しい話でもあります。この話は、鬼の多面性や人間との関係性を示す一例と言えるでしょう。
巻二十七第七話「在原業平中将鬼語」
在原業平という歌人が、評判の美女を盗み出して自分の家に連れて行きます。
しかし、その女は実は鬼で、夜になると業平の着物を奪って逃げてしまいます。業平は追いかけますが、鬼は姿を消してしまいます。
巻二十七第八話「於内裏松原鬼成人形」
小松天皇の御世に、内裏の松原に鬼が住んでいました。
ある日、鬼は人の姿に化けて、内裏に向かう若い女三人を襲って食べてしまいます。
その後、鬼は女の衣服を着て内裏に入りますが、女の父親に見つかって追われます。鬼は逃げながら、女の首を投げて父親に当てます。父親は悲しみのあまり死んでしまいます。
第十三話「安義橋の鬼が弟に化けて命を奪った話」
近江国の守の館に、勇猛な男がいました。その男は、安義橋という鬼が出るという噂の橋を渡ってみようと言い出します。他の者たちも興味を持って見物に付き合います。男は名馬に乗って橋に向かいますが、橋の中ほどで、紫色の衣服を着た美しい女に出会います。女は男に助けを求めますが、男は鬼だと思って通り過ぎます。
すると、女は鬼の姿に変わって男を追いかけます。男は必死に逃げますが、鬼は「いつかは会ってやる」と言って消えます。男は館に帰りますが、その後、鬼が弟に化けて家に来て、男を殺してしまいます。
この話は、鬼の恐ろしさや、無益な言い争いの愚かさを教えるものと考えられます。
第十四話「鬼が人に化けて、人の妻を奪った話」
ある人が、妻と一緒に旅をしていました。途中で、鬼が人に化けて、その人の妻を奪ってしまいます。鬼は妻を連れて山に入りますが、妻は鬼に気づいて逃げようとします。
しかし、鬼は妻を捕まえて、食べてしまいます。その後、鬼は再び人に化けて、その人の家に行きます。人は妻が帰ってきたと喜びますが、鬼は人を殺そうとします。
人は鬼に気づいて、隣の家に逃げます。鬼は人を追いかけますが、隣の家の者たちに見つかって、射られて死んでしまいます。
第十八話「鬼が板になって人を殺した話」
夏の頃、ある人の家に、若い侍二人が宿直していました。夜中に、板が動いて侍の一人を殺します。もう一人の侍は、板を射て破りますが、その板は鬼になって逃げていきます。
この話は、鬼が人間の死体や物に憑くことがあるということを示しています。
第二十三話「播磨国の鬼が、人家に来て射られた話」
播磨国のある人が死んだので、その家に陰陽師が呼ばれて死穢を祓います。陰陽師は、ある日に鬼が来ると予言します。その日になって、家の者たちは物忌みをして閉じこもります。
しかし、鬼は人に化けて、その家の娘に恋したと言って、門を叩きます。娘は鬼に気づいて、父親に知らせます。父親は鬼を射ようとしますが、鬼は矢を避けて、娘を連れて逃げます。父親は追いかけますが、鬼は娘を食べてしまいます。父親は悲しみのあまり死んでしまいます。
巻二十「天宮」には、天皇や皇后などの宮中の人々にまつわる様々な説話が集められています。
第七話「鬼と交わり続けた皇后の話」
文徳天皇の后である染殿后が、もののけの病にかかっていました。天皇は、大和国の金剛山に住む聖人に祈祷をさせましたが、聖人は皇后の美しさに心を奪われて、皇后を犯そうとしました。
聖人は捕らえられて山に返されましたが、死んで鬼になり、皇后のもとに現れて、毎日交わりました。
皇后も鬼に心を奪われて、天皇や父の大臣を見捨てて、鬼とまぐわいました。この話は、鬼と女の関係には、性的な意味合いも含まれているという解釈もあります。
第二十七話「鬼との出会い」
東国から上京した男が、道に迷って空き家に入ったところ、そこで鬼に遭遇します。鬼は男の髻をつかんで、引きずり込むように連れて行きます。鬼は、かつては人間だったが、罪を犯して鬼になった者です。鬼は、人間の心臓を食べることで、自分の罪を軽くしようとしています。
男は、鬼に腹を切って死ぬことを決意し、刀を抜こうとしますが、その瞬間、鬼は消えてしまいます。鬼は、決して男の死を恐れて逃げたのではなく、男の勇気に感動して、自ら消えたのでした。
この話は、鬼が、人間の罪や苦しみによって生まれる存在として描かれています。また、鬼は、人間の勇気や慈悲によって、救われることもあるということを示しています。
巻十七(第四十二話)「牛頭鬼」
日本海に面した但馬国(兵庫県北部)の山寺のお堂の中で、老若二人の僧が、日も暮れたため、そこで一夜を明かそうとした時のことです。二人が寝静まった深夜、突如、牛頭鬼が鼻息も荒々しく堂内に押し入ってきたというのです。若僧は気付いたものの恐ろしく、ひたすら法華経を念じるばかりでした。すると牛頭鬼は、若僧に近づくことなく老僧の元へ行き、いきなりその身体を引き裂いて喰い殺してしまったというのです。
若僧は今度こそ自分の番だと恐れ、無我夢中で堂内に安置されていた仏像に抱きついたところで気を失ってしまいました。
夜も明けて目が覚めてみると、自分が抱きついていたのは毘沙門天で、その前に、3つに斬られた牛頭鬼(ごずき)が倒れているのが目に入りました。そして毘沙門天が手にする剣に血が滴っていたところから、若僧が気絶している間に、毘沙門天が退治してくれたようでした。
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