天狗の変遷
文献に現れる天狗(是害坊絵巻)
是害坊絵巻は、大唐(中国)の天狗である是害坊が日本に渡り、比叡山の僧と法力競べを行い、敗れて怪我をし、日本の天狗に湯治などの介抱を受けて本復、送別の歌会ののち帰国するという、『今昔物語集』に取材した絵巻です。
内容
是害坊絵巻の物語は、『今昔物語集』巻第二十「震旦天狗智羅永寿渡此朝語第二」を典拠としています。
物語の中心は、是害坊という中国から来た天狗が、比叡山の僧と法力競べを行い、敗北して怪我を負う場面です。
その後、是害坊は日本の天狗たちに介抱され、賀茂川で湯治を受け、最終的には送別の歌会を経て帰国します。
是害坊絵巻では、是害坊が人間にやっつけられるというコミカルなキャラクターであるのに対し、能の是界坊は敗北しながらも威厳を失いません。
また、天狗たちは自らの敗北を予感するかのように、前半で人間的な苦悩を表していることが本作品の特徴です。
絵巻の中に書き込まれている日本の天狗の名は「日羅房」であり、これは太郎房のことであり、解説でも同一視されています。
この天狗譚は元々『かった宇治大納言物語』という今は失われた説話集にあった物語の一端が『今昔物語集』に流れこみ、この『宇治大納言物語』の一話を鎌倉時代の末に河内の叡福寺において絵巻として作成した、その転写本が曼殊院蔵『是害房絵』であると考えられています。
成立時期
是害坊絵巻の成立時期については、曼殊院本の奥書によれば、原本は延慶元年(1308年)に磯長寺で成立したと考えられています。現在知られている曼殊院本は、文和三年(1354年)頃に転写されたものであり、中世の説話絵巻として珍重されています。
意味と意義
是害坊絵巻は、単なる物語の絵巻としてだけでなく、当時の宗教観や文化、社会的背景を反映した重要な文化財です。
天狗という超自然的存在を通じて、人間の欲望や誇り、修行の重要性を描いています。また、天狗が日本の天狗に介抱される場面は、異文化交流や相互理解の象徴とも言えます。
美術的価値
是害坊絵巻は、その描写の素朴さと奔放な筆致が特徴であり、力強い表現が見られます。特に天狗たちの動態感ある表現や、自然の細やかな描写は、正統なやまと絵画家の作を思わせます。この絵巻は、14世紀の説話絵巻の優品として評価されています。
現在の保存状態
是害坊絵巻は、現在も保存されていますが、旧修理部分の劣化や虫損による欠紙、多数の折れがあり、特に後半部分は折れ山が深く、亀裂が生じかねない状態です。そのため、剥落止めを行ったうえで全面解体修理が必要とされています。
まとめ
是害坊絵巻は、日本の中世における宗教観や文化、社会的背景を反映した重要な文化財です。
天狗という超自然的存在を通じて、人間の欲望や誇り、修行の重要性を描き、異文化交流や相互理解の象徴ともなっています。
その美術的価値も高く、14世紀の説話絵巻の優品として評価されています。
是害坊絵巻は、天狗の神秘的な存在とその影響力を強調し、その多面性と複雑さを示しています。
そして、その存在は、人間の欲望や煩悩、そして仏法との闘争を象徴する存在となりました。
これらの説話を通じて、天狗のイメージが形成され、現代に伝えられています。
天狗の文献
日本書紀 | 天狗の概念が文献に登場 |
---|---|
宇津保物語 | はるかな山に住む天狗 |
今昔物語集 | 仏教説話に登場 |
太平記 | 政治の表舞台に登場 |
是害坊絵巻 | 比叡山の僧と法力比べ |
源氏物語 | 人間の世界に干渉 |
保元物語 | 日本三大怨霊の登場 |
遠野物語 | 山の怪の代表格 |