昔話に見る鬼の類型
こぶとりじいさん
老人が、鬼に質草として頬の瘤を取られる説話群で、「隣の爺型民話」の大分類のうちに数えられます。
二人の翁(老人)が連夜で鬼の宴に参加し、隣の翁は逆に瘤を増やされる型が典型ですが、民話の常として様々な類型があり、ストーリーも様々なものがあります。
鎌倉時代の説話物語集『宇治拾遺物語』にも木樵が「鬼にこぶとらるゝ事」として収載されており、「ものうらやみはせまじきことなりとか(人を羨ましがってはいけないものなのだ)」と羨望を戒める言葉で結ばれています。
この話の内容は、次のようになります。
昔、ある村に、右の頬に大きなこぶがあるおじいさんと、左の頬に大きなこぶがあるおじいさんが住んでいました。二人ともそのこぶが邪魔で、人に笑われたり、仕事に支障が出たりして、とても困っていました。
ある日、右のこぶのおじいさんは、山に芝刈りに出かけました。
しかし、夕方になって突然の雨に降られてしまいました。おじいさんは、近くの木のうろに入って雨宿りをしました。
すると、そこに大勢の鬼たちがやってきて、木のうろの中で酒盛りを始めました。おじいさんは、恐ろしくて身を縮めていましたが、鬼たちの囃子が面白くて、ついつい出てきて踊りを見せました。
鬼たちも、おじいさんの踊りが気に入って、明日も来てくれと言いました。
そして、約束を守らせるために、おじいさんのこぶを質に取りました。
おじいさんは、こぶが取れてとても嬉しくて、家に帰りました。
その話を聞いた左のこぶのおじいさんは、自分のこぶも取ってもらおうと思って、翌日の夜、山に行きました。
同じ木のうろで鬼たちを待っていましたが、鬼たちは昨日のおじいさんを探していました。
左のこぶのおじいさんは、出てきて踊りを見せましたが、とても下手でした。
鬼たちは、おじいさんの踊りに興ざめして、こぶを返すから帰れと言いました。
そして、おじいさんのこぶを返すときに、もう一つこぶをつけてしまいました。おじいさんは、こぶが二つになってしまって、とても悲しくて、家に帰りました。
この話は、正直な人と意地悪な人の違いを示す話として、人々に語り継がれてきました。
正直な人は、鬼にも恩を受けることができますが、意地悪な人は、鬼にも嫌われることになります。
また、人のものをうらやんだり、欲張ったりすると、自分の身に災いがふりかかることも教えてくれます。
この話の寓意は、「人を喜ばせると自分も喜びを得ることができる」ということや、「人を羨ましがってはいけない」ということです。