天狗の正体はわからないものですから、昔から様々な人物(?)が、天狗ではないかと論じられてきました。このページでは、天狗と同義語としてとらえられている様々な人物を紹介します。
天魔雄命(あめのざこおのみこと)は、偽典とされていますが、先代旧事本紀(等)にのみ登場する、素戔嗚尊(スサノオノミコト)のいわば孫に当たる一柱(神)です。
日本の百科辞典的書物である寺島良安『和漢三才図絵』(正徳二年(西暦1712年))では、『先代旧事本紀』を引いて、素戔嗚尊の体内の猛気が吐き出されて天逆神(あまのざこがみ)と成ったという俗説を記しています。
素戔嗚尊は、日本人にはおなじみで、日本神話では凄まじい暴力と武勇の持ち主の神として登場します。
伊奘諾尊(いざなぎのみこと)と伊奘冉尊(いざなみのみこと)の子で、父神から追放され,高天原(たかまがはら)に姉の天照大神(あまてらすおおみかみ)をたずね乱行をかさねたので,姉は怒り悲しみ天岩戸(あまのいわと)にかくれたと伝えられます。
のち出雲(いずもの)国で八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し,すくった奇稲田姫(くしいなだひめ)と結婚し出雲の祖神となります。
「古事記」では須佐之男命とかきます。
さて、その荒ぶる神から生まれた女神「天逆毎(あまのざこ)」は、姿は人間に近いものの、顔は獣のようで、高い鼻、長い耳と牙を持つと言われています。天狗神(あまのざこがみ)とも称するように天狗や天邪鬼の親とも言われています。
何せ力が並はずれて強く、またどんなに強靱な矛や刀でも噛んで毀してしまうという恐ろしいほどまでの牙を持っています。
物事が意のままにならないと荒れ狂い、力のある神をも千里の彼方へと投げ飛ばし、鋭い武器でもその牙で噛み壊すほどの荒れようだったと伝えられています。
また、天邪鬼のように物事をあべこべにしないと気の済まない性格で、前のことを後ろ、左のことを右などと言ったという。
その「天逆毎(あまのざこ)」は、天の逆気を呑み込み、一人で孕み、天魔雄神(あまのまかおのかみ/あまのさかおのかみ)あるいは天魔雄命(あまのざこのみこと)をもうけるのですが、親子で暴れ回わり、後に天魔雄神は九天の王となり、荒ぶる神や逆らう神は皆、この魔神に属したといいます。
彼らが人々の心に取り憑くと心を乱され、聡い者を誑かし、愚かな者を迷わせるといわれています。(鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』でも天魔雄神を脇に抱える天逆毎が描かれています。)
やはり天狗のような強い法力を持つものを束ねることができるのは素戔嗚尊のような荒ぶる神やその力を受けついだ者でなければ無理だという発想に行ったものでしょうか。
なお、天邪鬼については、「人の心を見計らって悪戯をしかける子鬼」とされることから転じて、現代では「他者(多数派)の思想・言動を確認したうえで、あえてこれに逆らうような言動をする"ひねくれ者"、"つむじ曲がり"」「本心に素直になれず、周囲と反発する人」またはそのような言動を指して、「あまのじゃく(な人)」と称されるようになりました。(ウィキペディアより抜粋)
いずれにせよ、天狗と同様にあまり人には印象よく思われていなかったのは確かなようですね。
参考資料:(『和漢三才圖會』巻44治鳥付天狗天魔雄)。