甲州街道訪ね歩き

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鬼の意義


 鬼退治には、メッセージ性、何を伝えようとしているか、その意味を考えたとき、大きくは以下の3つのメッセージが受け取れます。

(1)英雄や豪傑の勇敢さや正義感を称える

 鬼退治に挑む者は、人々のために自らの命をかけて戦います。
 鬼退治の物語は、日本の古代から伝わる英雄譚の一種で、鬼と呼ばれる病気や災厄をもたらす存在に対抗する人間の勇気や正義を称えるものです。
 鬼退治の物語は、人々に勇気や希望を与えるとともに、鬼と人間の関係や鬼の性質についても様々な考察を示唆しています。

 鬼退治の物語には、様々な類型やバリエーションがありますが、代表的なものとしては、桃太郎や金太郎などの物語があります。
 桃太郎は、川から流れてきた桃から生まれた少年が、犬や猿や雉を仲間にして鬼ヶ島に行き、鬼を退治する物語です。金太郎は、山の中で熊や鹿などの動物と遊びながら育った力持ちの少年が、鬼の棲む赤鬼山に行き、鬼を退治する物語です。
 これらの物語は、日本の歴史や文化に深く関わるもので、古代の吉備津彦命や源頼光などの鬼退治の伝説や、気比神宮や吉備津神社などの鬼退治に関係する神社などがその背景にあります。
 また、これらの物語は、時代や地域によってさまざまに変化や創造が加えられ、芥川龍之介や尾崎紅葉などの作家によって再構築されたり、映画やアニメなどのメディアによって再現されたりしています鬼退治の物語は、人々に勇気や希望を与えるものです。

(2)鬼と人間の関係を描く

 鬼は、人間とは異なる存在として敵対することもあれば、人間と共存することもあるということを示します。
 また、人々に異文化や異界への理解や寛容さを求めるものもあります。
 例えば、鞍馬天狗や貴船の龍女などの物語があります。鞍馬天狗は、鞍馬山の奥に住む大天狗で、牛若丸(のちの源義経)に剣術を教えたという伝説で知られます。

 貴船の龍女は、貴船神社の近くにある龍神池に住む龍の娘で、貴船神社の神主の息子である貴船太郎と恋に落ちます。 貴船の龍女は、人間の世界に憧れており、貴船太郎と結ばれるために人間の姿に変身します。しかし、貴船太郎の父親は、龍女との関係を快く思わず、二人を引き裂こうとします。貴船の龍女は、人間と異なる存在として差別されることもありますが、人間と共存することを望みます。貴船の龍女は、人間と異文化や異界の存在との理解や寛容さを求める物語として描かれます。

 以上のように、鞍馬天狗や貴船の龍女などの物語は、鬼と人間の関係を描くものです。鬼は、人間とは異なる存在として敵対することもあれば、人間と共存することもあるということを示します。また、人々に異文化や異界への理解や寛容さを求めるものもあります。

(3)鬼という象徴を用いて社会や時代の問題を表現する

 鬼は、時折、人間の欲望や怨念から生まれる存在です。鬼を題材にした物語は、人々に自己の内面や社会の矛盾に目を向けるよう促します。この物語は、日本の歴史や文化とも深く結びついています。

 鬼退治の物語は、平安時代から鎌倉時代の源平合戦や南北朝時代から戦国時代の内乱など、激動の時代に生きた人々の苦悩や願望を反映しています。鬼は、敵対する勢力や異なる価値観を持つ者たちを象徴しており、鬼退治は自らの正義や信念を貫くために戦うことを意味しています。

 ただし、鬼退治の物語は単純な善悪の対立ではありません。
 鬼にも人間らしさや哀れみがあり、鬼退治には犠牲や後悔がついて回ります。
 これらの物語は人々に自らの行動や選択について考えさせる役割を果たしています。
 たとえば、平家物語や源平盛衰記は、源平合戦をテーマにしています。平家は平清盛を中心とする平氏一門で、鎌倉幕府を築いた源頼朝の対立相手でした。平家は朝廷や貴族と結びつき、権力を握りましたが、源氏の抵抗によって滅亡しました。
 これらの物語では、平家は鬼として描かれ、人間の欲望や傲慢さの象徴として、神罰や因果応報によって絶えず滅ぼされる運命にあるとされています。
 しかし、平家にも人間的な感情や情熱があり、滅亡の瞬間には悲壮な姿や美しさが描かれています。平家物語や源平盛衰記は、平家の栄華と没落を通して、無常や悲哀を感じさせる物語です。