豊作の守護神としての鬼
鬼は日本の伝承において、農業と豊作の守護神として信仰されています。特に農村地域では、鬼祭りや祭りの一環として、鬼を祀り、豊作を願う儀式が行われてきました。
鬼は鬼門(北東)から出入りするとされ、鬼門は申・酉・戌の方角に対応しています。
これらの方角は、犬・猿・雉の動物に結びつけられ、これらの動物は鬼の使いとされました。また、鬼門は稲の成長にも影響すると考えられ、鬼は稲の神ともされました。
鬼は農業における水の神とも見なされ、水の豊富な山に住むとされました。
鬼を鎮め、作物の成長と収穫を願うことが、鬼祭りや鬼祀りの目的でした。
鬼祭りや鬼祀りには、さまざまな種類や形式がありますが、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。
「節分の追儺式(ついなしき)」は、鬼を祓う儀式で、鬼の面をかぶった者が寺院や神社の境内を走り回り、豆や柊鰯などを投げて鬼を追い払います。鬼は外、福は内という掛け声が有名です。京都の吉田神社では、方相氏(ほうそうし)と呼ばれる鬼が赤鬼、青鬼、黄鬼を追い払います。
「修正鬼会(しゅうじょうおにえ)」は、鬼を祀る儀式で、旧正月に行われます。鬼は神々に代わって災いを祓い清める存在と考えられています。大分県の六郷満山では、赤鬼の災仏鬼(さいぶつき)と黒鬼の鎮鬼(しずめおに)が松明を振り回しながら舞います。
修正鬼会では、まず、寺院の堂内で、僧侶が扮した鈴鬼と呼ばれる男女の鬼が舞を踊ります。鈴鬼は鬼の面をかぶり、鈴を鳴らしながら、鬼たちを招き入れる役割を果たします。次に、僧侶が扮した赤鬼の災払鬼と黒鬼の荒鬼が登場します。
これらの鬼は、たいまつを持って寺院の境内や集落を回ります。災払鬼は愛染明王の化身であり、災いを祓う役割を果たします。荒鬼は不動明王の化身であり、荒々しく舞いながら、災払鬼を助けます。
鬼たちは、人々から歓待を受けながら、家内安全や五穀豊穣を祈願します。鬼は悪鬼ではなく、祖先が姿を変えたものとされ、民俗学的には祖霊神の一種と考えられています。修正鬼会は、国指定の重要無形民俗文化財に指定されており、日本の貴重な伝統文化の一つです。
「鬼祭り」と「鬼太鼓」は、日本の伝統的な祭りや芸能で、鬼という神話上の存在と関係があります。
鬼は、日本の古代から信仰されている神で、荒ぶる力や疫病をもたらすものとして恐れられる一方で、農業や豊作の守護神としても崇められてきました。鬼祭りや鬼太鼓は、鬼を鎮める儀式や鬼との交流を表現したもので、地域によって様々な形式や特徴があります。
豊橋鬼祭りは、愛知県豊橋市で毎年2月10日から11日にかけて行われる祭りで、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
この祭りは、安久美神戸神明社の春の例祭で、平安時代から鎌倉時代に流行した田楽に日本建国の神話を取り入れた神事です。
祭りの中で最も有名なのは、「赤鬼と天狗のからかい」という行事で、荒神である赤鬼を武神天狗が退散させる様子を具現化したものです。赤鬼は、敗れた後にタンキリ飴と白い粉(小麦粉)をまき散らします。この粉を浴びたり飴を食べたりすると、厄除けや夏病みせずになると言われています2。この祭りは、豊橋の春を告げる祭りとして親しまれています。
鬼太鼓は、新潟県佐渡島で行われる伝統芸能で、鬼が太鼓の音に合わせて舞います。鬼太鼓の起源は不明ですが、獅子舞が変化したものや、相川鉱山の大工が打っていた鳴り物が発展したものという説があります。佐渡島では、島内の約120地区でそれぞれの流派の鬼太鼓が行われています。
鬼太鼓は、大きく相川系・国中系・前浜系の3系統に分けられますが、それぞれに特徴や差異があります。相川系は、豆蒔き(翁)と薙刀を持った鬼と棒を持った鬼が舞います。国中系は、獅子と鬼が舞います。前浜系は、鬼が向かい合って舞います。鬼太鼓は、五穀豊穣や厄払いを祈る神事として、家を一軒ずつ回って舞を披露します。
以上のように、鬼祭りや鬼祀りは、日本の伝統文化や信仰の一部として、今も多くの人々に親しまれています。鬼祭りや鬼祀りに参加することで、鬼のパワーを感じることができるかもしれません。