天乃石立神社は、剣豪の里「柳生」エリアの中心部から少し離れた山の中、戸岩谷と呼ばれる巨石が重塁している谷にあり、御祭神は、天照大御神ほか3柱で、御神体は扉の形をした巨岩になっています。
注連縄が張り廻らされた御神体の巨岩は、前伏盤、前立盤、後立盤の3つに分かれています。伝説によると、神代の昔、高天原で手刀雄命(テヂカラオノミコト)が天岩戸を引き開けた際に、力余ってその扉石が虚空を飛来し、この地に落ちたとされています。
天乃石立神社から奥に少し進んだところにある巨石「一刀石」は、まさに一刀両断されたような形状をしており、二つに割れた約7m四方の花崗岩の巨岩。
大きな裂け目は、冬場に岩にしみこんだ雨水が凍って膨張した結果で、約30cmの隙間を保っています。しかしこの石には不思議な天狗伝説が伝わります。
なお、「一刀石」は、人気漫画『鬼滅の刃』のモチーフになったとされています。柳生で鬼滅ファンらが集う聖地ともなっているようです。
柳生藩初代藩主、柳生宗矩の父にあたる柳生宗厳(むねよし)は、従来より剣術の腕に優れ、やがて戸田一刀斎という師匠を打ち負かすほどの腕前となりました。
うわさをきいて全国各地から腕に自信のある剣豪たちが柳生にやってきましたが、宗厳に勝てる者は、一人としてあらわれませんでした。
ところがある日、東国から上泉信綱(かみいずみのぶつな)が柳生にやってきました。
上泉信綱(かみいずみのぶつな)は、陰流、神道流、念流などをおさめ、特に陰流に新たな工夫を加えた「新陰流」兵法をあみだし、後に「剣聖」と謳われる塚原卜伝と並び称される剣豪でした。
自然体で隙だらけに見える信綱に電光石火の竹刀を振り下ろす柳生宗厳。
剣豪同士の一騎打ちは上泉信綱の神業のような剣法の前に、宗厳は簡単に一本を取られました。
宗厳は上泉信綱の弟子にしてもらい、それからは雨の日も風の日も休む暇なく修行に励んだそうです。
ところで柳生宗厳がここで修行をしていると天狗があらわれ、毎夜試合をしました。
ある夜、一刀のもとに天狗を切り捨てた宗厳。しかしそこに天狗の姿はなく、大きな石がふたつに割れていたのでした。それで、その石を「一刀石」と呼ぶようになり、その石には実際に、岩面に天狗の足跡が残ると言われています。
巨石をも斬ってしまう柳生の剣、おそるべし…。
宗厳は、この天狗との長年にわたる修行で「無刀の極意」を悟り、柳生新陰(やぎゅうしんかげりゅう)の始祖となり、のちに名を柳生石舟斎と改めたそうです。
あれっ、この話どこかで聞いたような・・・・・
そうですね、国民的人気のアニメとなった『鬼滅の刃』は、主人公の竈門炭次郎(かまどたんじろう)が人食い鬼に家族を殺され、残された妹・禰豆子(ねずこ)も鬼になってしまうところから始まります。
炭次郎は、鬼に殲滅し、妹を人間に戻すことを決意し、鬼殺隊(きさつたい)への入隊を目指します。その修行中に「一刀石」とよく似た岩が登場するのです。
師匠の鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)は、最終選別に行く条件として「この岩を斬れたら許可する」といいました。しかし、炭次郎は、半年経ってもまったく岩を斬ることができませんでした。
そんな炭次郎の前に、ある日、兄弟子の錆兎(さびと)が現れ、勝負を挑んできます。勝負は、一瞬で決着がつき、錆兎の面を斬った刀の先を見ると、そこには真っ二つに割れた巨大な岩がありました。
どうです、物語の序盤となるこの話は、すでにご紹介した柳生宗厳が、天狗を相手に修行に励んでいたときのエピソードと非常によく似ていることが分かりますね。
<天乃石立神社の基本情報>
住所:奈良県奈良市柳生町789
電話番号:0742-94-0242(芳徳禅寺)
アクセス:JR・近鉄奈良駅より奈良交通バスで約50分、柳生バス停から徒歩約30分
車利用の場合は、西名阪自動車道「天理IC」から約50分。名阪国道「針IC」から約20分。柳生観光駐車場から徒歩約15分
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